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住み続けられるまちを目指して
まちづくりの手段としてのコーポラティブハウス

COOPERATIVE HOUSE JOURNAL
2019/12/24

環境首都」と称されるドイツの南西部 のフライブルグ市。その中でもヴォーバン地区は「長く住み続けられる(持続可能な)住宅地」の成功例として、世界中から視察者が訪れます。

この住宅地が他と異なるのは、住民が積極的にまちづくりに関わってきたという事です。1993年に、フランスの駐屯地だったこの地区を住宅地として開発する方針が決定すると、行政は「拡大住民参加」をキーワードに、地区計画の策定に積極的に住民の参加を促す方針を取りました。行政、住民そして両者の橋渡し役のNPO「フォーラムヴォーバン」が一体となり、集会で対話を重ねながらこの住宅地の構想を練っていきました。その結果、住民の実生活に即した「持続可能な住宅地」が実現したのです。

特に、住民、行政、NPOが共につくりあげたウォーバンのまちづくりのコンセプト「ソーシャル・エコロジーコンセプト」の10ヶ条には、持続可能なまちを作るためのヒントが集約されています。

その中で最もよく取り上げられるのが、車の利用や所有を避け、公共交通機関の利用を促すカーポートフリー構想です。基本的には、車の駐車は地区内の3つの駐車場に集約し、住宅地に極力車が入らないようにします。その代わりに、地区の中心には中央駅に向かうトラムが走っていたり、集合住宅の1階にはスーパーなどの小売店が入居するなど、車を使わなくても生活ができる仕組みが整えられました。

実際に地区を歩いていると、学校帰りの子供達が広い歩道を走り回ったり、小さな子供が遊ぶのを見守りながら本を読む親などを目にし、どの世代も安心して街中を歩くことができる環境の素晴らしさを肌で感じました。


また環境先進地区として名高いフライブルグ市にふさわしく、高気密・高断熱の省エネ建築様式の義務化やコージェネレーションの発熱・発電施設の建設など、エネルギーの消費を限りなく抑える住宅作りも行われています。(写真は地区内にあるコージェネレーションシステムの施設)

そして、この10箇条の1つに、住民の自治意識を高めるため、コーポラティブを主体とした集合住宅の推進も挙げられています。実際、地区の集合住宅の8割はコーポラティブハウスであり、60以上の建設組合がこの地でコーポラティブハウスを建設しました。

このまちでは、コーポラティブハウスは目的ではなく、持続可能なまちづくりを実現する手段の1つとして取り入れられています。つまり、集合住宅作りに主体的に関わる経験をすることで、自らの建物の維持はもちろんのこと、公園や通りなど、まち全体の未来を考え主体的に行動する事が自然と身に付くのです。実際、地域のいくつかの公園の計画にも住民が積極的に参加しており、地形を生かしたすべり台や、手作りのクライミングウォール、共同で使用する釜など特色のある設備が見られました。

住民が主体となり、まちを丸ごとつくりあげたヴォーバン地区は、これからもまちづくりの1つのモデルであり続けるでしょう。

※この連載は、大阪市の上町台地で配布されている地域情報誌「うえまち」にて連載しているものを加筆、再構成したものです。